20年以上にわたりWindows更新プログラムの管理を支えてきたWSUS(Windows Server Update Services)の非推奨化が、2024年9月に発表されました。「将来的な廃止まではまだ時間がある」と考えがちですが、代替手段への移行には想像以上の準備期間が必要です。
そこで本記事では、WSUS非推奨化の背景から代替サービスの詳細比較まで、IT管理者が押さえるべき情報を網羅的にご紹介します。

WSUSは、Microsoftが提供する無償のWindows更新プログラム管理ツールです。2005年のリリース以来、企業内のWindowsパッチの更新を一元管理する役割を担ってきました。
WSUSの基本的な仕組みは、企業内にWSUSサーバーを設置し、このサーバーがMicrosoft Updateから更新プログラムをダウンロードして、企業内の各クライアントPCやサーバーに配布するというものです。これにより、各端末が個別にインターネットから更新プログラムをダウンロードする必要がなくなり、ネットワーク帯域の節約と、更新プログラムの承認制御が可能になっていました。
WSUSが非推奨となった背景には、大きく4つの要因があり、それぞれが企業に深刻な影響を与えています。
1. リモートワークへの対応ができない
コロナ禍以降、テレワークが当たり前になりましたが、WSUSは社内ネットワーク前提の仕組みです。在宅環境のPCを更新するにはVPNで社内ネットワークに接続する必要がありますが、Windowsの更新プログラムは大容量のため、VPN回線を圧迫し、業務に支障をきたすケースが増えています。
例えば、100台のPCが同時に1GBの更新を行えば、合計100GBもの通信がVPNに集中します。その結果、VPN装置がボトルネックとなり、他の業務システムの利用やWeb会議などにも影響が及びかねません。通信への影響を避けるために更新が後回しにされることで、管理が行き届かないPCが生まれ、組織全体のセキュリティレベルが低下するリスクも懸念されます。
2. アプリケーション管理に限界がある
WSUSの管理対象はWindows OSや一部のMicrosoft製品が中心であり、業務で利用される多くのアプリケーション更新には対応していません。特に、Microsoft 365 Apps(Office製品)は、更新方式が「Click-to-Run」形式に移行したため、WSUSでの配信が不可能になりました。
これにより、IT管理者はOSとアプリケーションで異なる管理方法を使い分ける必要があり、管理業務が二重化・複雑化しています。管理プロセスが分かれることで更新漏れが発生しやすくなり、アプリケーションの脆弱性が放置される可能性が高まります。攻撃者はOSだけでなくアプリケーションの脆弱性も狙うため、これらが見過ごせないセキュリティ上の問題点となっているのです。
3. 管理者の負担が大きすぎる
WSUSを運用するには、WSUSサーバー自体の保守管理に加えて、多くの手動作業が求められます。具体的には、毎月リリースされる更新プログラムの内容を確認して承認し、各PCへの配信状況を監視、エラーが発生した場合は原因を調査して個別に対応するといった作業です。
こうした手作業の多さはIT管理者の工数を増大させ、本来注力すべき他の業務を圧迫する一因となります。また、運用方法が特定の担当者の知識や経験に依存する「属人化」も起こりやすく、担当者が不在の際に更新管理が滞るリスクも抱えています。手動での作業はヒューマンエラーの可能性も伴うため、承認ミスや配信漏れがセキュリティリスクに直結する懸念も常に残ります。
4. Microsoftがクラウドファースト戦略に移行している
WSUSの将来性に大きく影響しているのが、開発元であるMicrosoft自身の戦略です。現在のMicrosoftは、AzureやMicrosoft 365といったクラウドサービスを事業の中核に据える「クラウドファースト」戦略を明確に打ち出しています。
この方針のもと、開発リソースはクラウドサービスに集中しており、WSUSのようなオンプレミス型の製品に新しい機能が追加されることは期待しにくい状況です。結果として、企業はサーバーの維持コストを払い続ける一方で、WSUSの機能は陳腐化し、その価値は相対的に低下していきます。新しい働き方や新しいOSの機能に対応できないままWSUSを使い続けることは、長期的に見て得策とは言えなくなっているのです。
では、WSUSの後継として、どのようなサービスを選べばよいのでしょうか。主要な代替サービスを詳しく解説し、企業規模や環境に応じた選定のポイントをご紹介します。
Microsoftが推奨する代替サービス
Microsoftは、WSUSの代替として主に3つのクラウドベースのサービスを推奨しています。
① Windows Autopatch
Windows Autopatchは、Windows更新の自動化を実現するクラウドサービスです。WindowsクライアントOSやMicrosoft 365アプリを、常に最新かつ安全な状態に保つための機能が提供されています。
主な機能
- 更新プログラムの自動配信(Windows OS、Microsoft 365 Apps、Edge、Teams)
- 段階的展開による安全な適用(先行展開グループ → 一般グループ → 最終展開グループ)
- 問題検知と自動ロールバック
- 詳細なレポートとダッシュボード
ライセンス・コスト
- Microsoft 365 E3/E5/F3/A3/A5
- Microsoft 365 Business Premium
※Windows 11 Education(A3/A5) またはEnterprise(E3/E5/VDA)でも利用可能ですが、その場合は以下ライセンスが別途必要となります。
・Microsoft Intune
・Microsoft Entra ID P1 または P2
こんな企業におすすめ
- クライアント端末を管理したい
- 更新管理の多くを自動化したい
- Microsoft 365環境を既に利用している
② Azure Update Manager
Azure Update Managerは、サーバー更新の自動化と可視化を実現するクラウドサービスです。Azure上の仮想マシンだけでなく、オンプレミスのサーバーや他社クラウド(AWS等)のサーバーも、Azure Arcと連携することで一元管理できます。
主な機能
- Windows ServerとLinuxの両方に対応
- スケジュール設定による自動更新
- 更新状況の可視化ダッシュボード
- オンプレミス・マルチクラウド対応
ライセンス・コスト
- Azure VM:無償
- オンプレミスサーバーや他社クラウド(AWS等)のサーバー:Azure Arcライセンスが必要
※以下のケースでは、Azure Arcのライセンスは不要です。
・Azure Arc対応拡張セキュリティ更新プログラム (ESU) の配信が有効になっているケース
・Arc対応サーバーをホストするサブスクリプションが、Microsoft Defender for Servers プラン 2に対して有効になっているケース
こんな企業におすすめ
- サーバーの更新管理を効率化したい
- ハイブリッドクラウド環境を運用している
- Azureを既に利用している
③ Microsoft Intune
Microsoft Intuneは、単なる更新管理ツールではなく、デバイス管理の統合プラットフォームです。Windows PCだけでなく、Linux、Mac、iOS、Androidデバイス等も一元管理できるのが特長です。リモートワーク環境でも、場所を問わず確実な管理が可能です。
主な機能
- マルチプラットフォーム対応(Windows、Mac、iOS、Androidほか)
- ポリシーによる更新制御
- 管理センターでの可視化
- Microsoft 365との統合
ライセンス・コスト
- Plan 1:月額1,199円/ユーザー
- Suite:月額1,499円/ユーザー
※Microsoft 365 E3/E5に含まれる場合があります。
こんな企業におすすめ
- リモートワーク環境やBYOD環境で、様々なデバイスを統合管理したい
- SCCM(現Microsoft Configuration Manager)からクラウドベースの運用に移行したい
- Microsoft 365環境を既に利用している
その他の代替ツール
Microsoft製品以外にも、優れたパッチ管理ツールが存在します。特に、大規模環境の場合や特殊な要件がある場合は、これらのツールも有力な選択肢となるでしょう。
④ Tanium
Taniumは、数千台以上の大規模環境でもリアルタイムで管理できる、エンタープライズ向けのクラウド型ソリューションです。数秒〜数分以内に全端末の状況を把握できる高速性が最大の特長です。
主な機能
- リアルタイムでの更新状態可視化と配信制御
- 脆弱性管理と脅威検知の統合
- 詳細な資産管理
- 柔軟な自動化・API連携
ライセンス・コスト
- 初期費用:数百万円規模
- 年間契約制(1,000台~が目安)
こんな企業におすすめ
- 数千台以上の大規模環境で、迅速・確実にパッチを適用したい
- セキュリティ機能も統合したい
- 海外拠点やリモート環境でも同一レベルのパッチ管理を実現したい
⑤ Ivanti
Ivantiは、脆弱性情報に基づいて優先順位を自動判断しパッチを適用できる、インテリジェントなクラウド型パッチ管理ツールです。Microsoft Intuneとの連携も可能で、柔軟な運用が実現できます。
主な機能
- 脅威インテリジェンスに基づく優先順位付け
- Microsoft IntuneやSCCMとの連携による高度なパッチ管理
- 詳細な資産管理・ライセンス管理
- 詳細なレポートとダッシュボード
ライセンス・コスト
- 年間契約制(数百万円規模が一般的)
こんな企業におすすめ
- 脆弱性管理を重視したい
- すでにMicrosoft IntuneやSCCMを利用中で、高度なパッチ管理機能を追加したい
- セキュリティやコンプライアンス強化を重視したい
⑥ Unifier Cast
Unifier Castは、国産のオンプレミス型パッチ管理ツールで、特にネットワーク負荷を抑えた配信に強みがあります。ファイルを分割して配信する機能により、細い回線でも確実な配信が可能です。
主な機能
- 分割配信によるネットワーク負荷軽減
- Cast機能による拠点内での効率的な配信
- 視覚的に分かりやすいダッシュボード
- 任意のアプリケーションのパッケージ化
ライセンス・コスト
- 月額200円/台(税抜、サポート込み)
こんな企業におすすめ
- コスト効率を重視したい
- 全国に拠点があり、ネットワーク負荷を抑えたい
- 在宅勤務者にも安定して更新を届けたいが、Microsoft Intuneは未導入
選定の決め手となるポイント
これらの多様な選択肢の中から自社に最適なツールを選び抜くには、いくつかの明確な基準で比較検討することが重要です。ここでは、特に決め手となる3つのポイントを解説します。
1. まずは「管理対象」を明確にする
最初のステップは、何を管理したいのか、その範囲を正確に定義することです。管理対象がサーバーだけであれば、Windows ServerとLinuxの両方に対応し、ハイブリッドクラウド環境を一元管理できるAzure Update Managerが最も合理的な選択肢となります。
一方、管理対象がWindowsのクライアントPCに限定されるのであれば、更新プロセスの大部分を自動化できるWindows Autopatchや、コスト効率に優れたUnifier Castが有力な候補となるでしょう。しかし、社内にMacやスマートフォン(iOS/Android)といった多様なデバイスが存在し、それらを統合的に管理する必要がある場合は、Microsoft IntuneやTanium、Ivantiといった、より広範なデバイスをカバーするUEM(統合エンドポイント管理)機能を持つツールが求められます。
2. 「予算」と既存ライセンスの活用を考える
次に重要なのが予算です。特に、すでにMicrosoft 365 E3やE5といったライセンスを契約している企業であれば、追加費用なしで利用できるWindows AutopatchやAzure Update Manager、Microsoft Intuneは非常に魅力的な選択肢です。既存の投資を最大限に活用することで、コストを抑えながらスムーズに移行できます。
一方で、新規にツールを導入する場合や、シンプルな料金体系を重視するならば、デバイス単位の月額課金で分かりやすいUnifier Castが検討対象となります。また、潤沢な予算を確保でき、数千台規模の端末をリアルタイムで管理したい、あるいはセキュリティ機能を統合したいといった高度な要件がある場合は、エンタープライズ向けのTaniumやIvantiがその性能を発揮します。
3. 「運用負荷」をどこまで軽減したいか検討する
最後に、IT管理者の運用負荷をどのレベルまで下げたいかを考慮します。もし、パッチ管理に関する一連の作業を可能な限り自動化し、担当者を本来のコア業務に集中させたいのであれば、「設定したらお任せ」に近い運用が可能なWindows Autopatchが最適です。同様に、TaniumやIvantiも、ポリシーに基づいた高度な自動化機能を提供します。
逆に、更新プログラムの適用タイミングなどを自社で柔軟にコントロールしたい場合は、詳細なポリシー設定が可能なMicrosoft Intuneが適しています。Unifier Castも、シンプルな操作性の中で手動での制御も行えるため、自社のペースで運用したい企業に適していると言えるでしょう。
最終的には、自社の環境、予算、運用体制を総合的に判断して選定することが重要です。
本記事でご紹介したツールの機能や価格、選定ポイントをより詳しくまとめた「パッチ管理ツール比較表」をご用意しました。ツール選定の検討資料として、ぜひダウンロードしてご活用ください。

WSUSの開発終了により、企業は更新管理の方法を見直す必要に迫られています。これを単なる「ツールの入れ替え」ではなく、より効率的でセキュアな管理体制を構築する機会ととらえることが重要です。WSUSからの移行は確かに大変な作業ですが、自社に最適なツールを選択することで、セキュリティ強化とIT部門の業務負荷の大幅な軽減が期待できます。
SCSK Minoriソリューションズでは、WSUSからの移行をトータルでサポートしています。「どのツールを選べばいいか分からない」という代替サービスの選定段階のご相談から、「ツールは決まったが導入が不安」という方への構築支援、さらには移行後のWindowsアップデート運用サービスまで、幅広くお手伝いさせていただきます。ぜひお気軽にお問い合わせください。


